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接地工学研究会投稿文

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「雷保護について考える(2003年)」

                           鞄本電設コンサルタンツ
                             大谷 奉暉

 5年ほど前、私共の得意先である、某大学で、設置されている殆どの地絡方向継電器が壊れてしまったことがあった。原因は、雷サージによるものとしか考えられなかった。
只、運良く助かった継電器もあり(雷サージ対策をしてあるとされる、型式が新しいものだったのだが)、その後雷サージに対応した継電器に取り替えが完了し、今後はこれほどまで多くの継電器が壊れることは無いであろうと、その時は考えていた。
 そして、昨年同じ現場にて、測定の為構内を巡回していると、一天俄にかき曇り、夕立と、強烈な落雷に数度にわたり見舞われた。「もしかしたら」という不安は、見事に的中した。数日後、受変電設備の点検を実施したが、またもや、地絡方向継電器のほとんどが壊れてしまっていた。
 今後、たとえ新しい継電器に取り替えたとしても、大きな落雷があれば、必ずや又継電器が雷サージによって壊れるであろう、と言うことははっきりしている。であるなら、それをどうやって防げばよいかを考えなくては、同じ事の繰り返しである。
 又、埼玉県深谷市にある得意先の工場では、毎年落雷によって機器が壊れてしまっていた。それについて、我々は意見を求められ、接地方式・工事方法・耐雷トランス・避雷器等を含めたシステムとしての接地や防雷の考えを、主任技術者に話したところ、「それで絶対大丈夫ですか?」と逆に問い返され、「それは私共にも分かりません。」と答えるしかなかった。
 ある時、耐雷トランスを制作しているメーカーの技術部長と話した事があるのだが、その人に「(耐雷トランスの)効果はあるようですか?」と聞くと、「少なくとも、それを設置したところには被害は出ていません。只、落雷が無くてそうなのか、それのおかげなのかは私にも分かりませんが、、、」という答えだった。
 ある製薬会社の新社屋の竣工前、工事業者、機器メーカーの担当者が全員集められ、設計事務所の担当者を中心に、雷保護について話し合われた。その席に我々も同席したのだが、メーカーの担当者は、皆口をそろえて、「私共はこういった雷保護を行いますので、大丈夫です。」というばかり。とうとう設計事務所の担当者が、痺れを切らし、「私は今日そういった話をしてもらう為に、皆さんにここに来てもらった訳では無いんです。この新しく建つこの建物のどの設備までを守ろうか、いわば死守しようか、その為にはどうすればいいのかという意見を聞きたいんです。」と言われた。それには、どの担当者も口を噤むことになってしまった。 
 ここまでの話で、一番の問題で厄介なところは、相手が雷と言うところである。つま
り、相手は予測不可能なもので、たとえ落雷がありそうだと予想出来ても、一体どれくらいの規模のものが、何時、何処に、どれほどの落雷があるのか分かりようもない。そして実際、落雷により、機器が壊されることがあっても、雷のことであるからまさしく一瞬のことで、勿論漏電のような持続性もない。
 只、雷サージが侵入し、機器を破壊するのは確かなのであるから、被害があった場合
は、その原因、侵入経路をよく検討分析することが肝心であると思う。どう対処すればよいかについては、高橋先生の「接地システム入門」に詳しいので、ここでは述べないが、何をどう守るのかと言うことをよく考えた上で、それに対するその時考え得る最善の策を取るべきだと思う。でなければ同じ事(「相手は雷なのだから仕方がない、壊れれば又取り替えればよい」というような考え方)の繰り返しである。
 最近我々は、何とか落雷のデータを数多く収集出来ないか、と言うことを考えている。今後竣工するビルに、雷サージカウンタを取付け、長い年月データを収集する。それを高橋先生中心に、接地工学研究会が分析・解析する日が来てほしいと願っている。 
 さらに、今まで誰も手をつけなかった、建物や低圧幹線等のサージインピーダンス測定を、当社にておこなうべく、サージインピーダンス測定器の開発を現在行っている。それもようやく、6月頃試作品が完成する予定である。その測定を実施することにより、雷サージの分析がさらに一歩進むことになると思う。
 まだまだ長く険しい道のりにはなると思うが、会員全員が力を合わせ、接地工学研究会が、進歩・発展していくことを願って止まない。


「接地工事の現場にて(2006年)」

 
                                   (株)日本電設コンサルタンツ
                                   大谷 一

 昨年の接地工学研究会総会での特別講演で、三菱地所の林氏が、旧丸ビル解体時に、接地極板を掘り起こしたところ、「ほぼ完璧な状態で残っていた」と言うことを話され、大いに感銘を受けた。その接地極板は、約80年前に埋設され、孤独にじっと、そして、静かに安全を担っていたのである。
 それは、日本の電気工事が本格的に始まった時代のもので、設計はアメリカ人の技師によるものであったらしい。おそらく、工事監理も確実に行われ、施工も丁寧なものであったのであろう。
 今日、今も日本のどこかで接地工事が、保安用に、機能用に、また避雷針用にとそれぞれ施工されているはずである。
 しかし、接地工事の現場は、とても良い状況にあるとは言えない。
 まず、接地工事設計以前に、その現場の土壌調査、つまり、大地抵抗率の測定や、
解析、予想接地抵抗値の把握などは、殆どの現場で、全くと言うほどなされていない。建築基礎設計では、必ずボーリング等による調査が不可欠であると同様に、接地工事設計においても、基礎資料の確保は非常に大切であると言えるのではないだろうか。
 接地工事は、電気工事の範疇に分類されており、発注も建築工事に比べ遅れがちであ
る。例え、幸い接地工事の為の土壌調査が、電気工事の中に含まれていたとしても、全てが後手にまわっているが為に、いざ測定しようと現場に乗り込んだ時には、ダンプカーが我が物顔で走り回り、重機がそこら中で唸りを上げているのである。その状況を見て、呆然とする中、気を取り直して、なんとか測定出来る場所を見つけたとしても、そこは構台基礎のH柱の林の中のような場所であったと言うのでは、精度良く測定を行おうと言うことが、はなから不可能な話である。
 また、接地設備は、他の設備に比べ簡単なものと思われがちであり、定性的・定量的にとらえにくく、動作の確認も出来ず、埋設されれば目にすることも無くなる。さらに、電気工事担当者にも「接地工事はわからない」ですまされる傾向にあり、どうしてもお座なりに流れやすい。
 それに、接地関係の工事予算はあっても、調査費などの計上はなく、全て施工業者にしわ寄せがされ、また、施工業者も「どうせわからないのだから」と、お茶を濁し、工事施工も適当に済まされることがどうしても多くなる。
 今後、ますます、接地設備が保安上・機能上、質の向上を期待されて来るであろうと思われるとき、従来のお座なりの進め方を改善し、設計者、ゼネコン、電気工事業者が、互いに協力して、まずは接地関係に強い技術者の育成を行い、その上で、精度の良い接地工事がなされる日が、一日でも早く訪れることを願って止まない。

 

「遠くへ、遠くへ(2008年)」

 
                          鞄本電設コンサルタンツ
                                 大谷 奉暉

 大規模構造体を、電位降下法により測定する際に、補助極の位置が一番大きな問題となる。それを決定し、精度良く測定するのが、我々の真骨頂とも言えるのだが、、、
 つまり、接地工学上、電流用補助極は、主接地電極に対して、「十分遠方」に打設しなければならず、電位用補助極に至っては、「無限遠方」まで延ばさなくてはならな
い。
 「無限」などと言う言葉は、宇宙のことを語る時しか、使わないのかと思っていた。

 先日の接地工学研究会にて、高橋ゼミの学生と話す機会があり、補助極の位置について質問してみた。
 私:「補助極は、無限遠点まで延ばすんだよね?じゃあ、一番理想的な位置という
と、地球の反対側かな?」
 学生:「そうですね。きっと、、、」
 私:「そうか〜。うんうん。電流極も、電位極も地球の反対側に延ばすので良いのかな?じゃ、そうするとして、、、と、ん?あれ?電流極と、電位極は、隣同士で良いんだっけ?」
 学生:「あ!それじゃ困ります。」
 私:「だよね?遠くへ延ばそうとすればするほど近くなるよね〜?地球は丸いから
ね〜。」
 学生:「う〜ん。」
 私:「じゃ、どこが良いのかな?」
 学生:「・・・・」
 
 補助極の位置も、突き詰めて考えると、こういう事になるのである。つまり、そもそも、無限遠と言う位置は、この地球には存在しないのである。(「月に補助極を設ければどうなるか」という会話は、その時にしたけれど)
 有限だけれど、主接地極(被測定接地極)にとって、無限遠とも言える位置はどこにあるのか?遠くへ延ばせば延ばすほど良いことは、端から分かっているのである。しかし、時間とコストが限られている以上、どこかに決めなくてはならない。
 たまに勘違いされている方もおられるようだが、補助極の位置が近いと、当然、測定値は低く測定される(無限遠に存在する「0電位」との電位上昇を測定しなければならないのに、接地抵抗区域内の、近い補助極との電位上昇分しか測れないのであれば、電位上昇は必然的に少なくなってしまうと言う理由による)。
 これが、測定者にとって、一番の問題となる。つまり、補助極が近いことによって、もし、接地測定値が高くなるのであるなら、これほど助かることはない。「本来延ばさなければならない位置まで延ばせたとして、その時の測定値、その結果としての真値
は、これより低くなります。」と、言えば良いのだから、、、しかし、そうではない。補助極が近いと、接地抵抗値は低くなってしまうのである。
 従って、「遠くへ、遠くへ」と言うことになる。
 我々は、接地抵抗区域の考え方に基づき、被測定接地極の大きさによって、補助極の位置を決定することにしている。
 被測定接地極が大きければ、大きいほど、補助極の位置は、必然的に遠くなる。
 かつて、有明のビッグサイトの接地抵抗測定においては、直線距離で、1km先まで電線を延ばした。補助極も遠かったが、建物自体も大きかった為、測定用電線を、建物内を引き回すだけでも、相当な労力を要した。体力には自信がある私でも、流石に「泣き」が入った。今では、懐かしい思い出ではあるが、、、
 接地抵抗区域は、構造体なり、メッシュ接地極なり、大きさが想定できてこそ、計算し、判断出来るものである。しかし、その大きさが判断出来ないほど大きなものであったら、一体どうなるのか、、、そう言った事が、都会の建築物の接地抵抗測定では起こりうるのである。
大阪の或る場所で、既存の構造体を残し、そこに新たなビルを建設するという現場があり、既存構造体の接地抵抗を依頼され、実際測定を実施した。建物自体それほど大きなものとは言えず、補助極の位置も充分に離したし、測定上問題ないものと考えた。
 いざ測定を行うと、どうも測定値がおかしい。測定していてもどうも気持ちが悪い。測定値が一定しないし、電流値を増加させるに従って、接地抵抗値が減少していく。これはもしかしてと思い、担当者に、
 「まさか、構造体が地下鉄のホームにつながっていたりしませんよね?」と、尋ねると、「いや、つながっていますよ。将来このビルの地下から、直接地下鉄の駅に入れるようになります。」との事だった。
 我々は、単独の構造体ではなく、非常に大きな構造体(地下鉄のホーム等)を測ってしまっていたのだった。これでは、精度良く測定できるわけもなく、実際の構造体の大きさが判断出来ないのであるから、補助極の位置も決定しようがない。
 同じような現場が、東京の池袋駅近くにもあり、我々は、そこの構造体接地抵抗測定を依頼された。先日の経験を生かし、通常の2倍遠方の位置に補助極を設けた。
 結果、駅より離れた位置の柱に接続した場合の測定値は問題なかったが、駅に近い方の柱に接続したときの測定値が、おかしな値を示した。想像通り、そこの柱は、地下鉄のホームにつながってしまっていた。構造体は、本来一体であり、測定を行う場合、どの場所に接続して測定しても、同じ値を示すものだと思いがちだが、実際はそうではない。どこからどの様に電流が流れ込み、どの様な電位を示すかは、実際、測定してみないと分からないのである。
 もし、東京中の地下鉄と、周辺の建築物(構造体)が、接続されてしまった時、我々は、どこまで補助極を延ばせば良いのか?「富士山くらいまで延ばそうか?」と、今は冗談で話している。
 この様に、補助極の位置は、大変重要である。可能な限り、遠方まで延ばすべきである。
 今日も、我々は、日本のどこかで、電線を「遠くへ、遠くへ」延ばし続けているのである。 
 




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